M&Aの失敗要因はPMIではない。事前の準備が重要です!
M&Aの失敗要因はPMIではない。事前の準備が重要です!
国内のM&Aが増加していくと同時に、PMIの重要性が説かれることが多くなっています。
しかし、実際には目的が曖昧なままでM&Aが実行されたためにシナジーが生まれないケースや、シナジーは創出されているものの買収価額が高額すぎてのれんの回収すらままならないケースなど、M&Aの事前の準備不足によって失敗となることが多々あります。
本稿では、M&Aの成功確立を高めるために必要な買い手側の事前準備をご紹介します。
- 目的の明確化
M&Aは「時間をお金で買う」手法という説明を目にしますが、これだけではなぜM&Aを行うのかという目的が曖昧です。
M&Aはあくまで複数ある経営手法(戦略)の1つの手段であって、目的ではありません。
自社にとってM&Aを行う意義はどこにあるのか、なぜその企業・事業の取得を検討しているのか、期待される効果は何なのか、どのようなビジョンを描くのか、M&Aの具体的な検討に入る前にまずは目的を明確にすることが重要です。
さて、新聞やニュースなどでM&Aの事例を目にする機会が増えていますが、それぞれどのような目的をもってM&Aを行っているのでしょうか。
一般的な類型と個別企業のM&A方針を見ていきましょう。
■M&Aの目的の一般的な類型
M&Aでは、対象とする事業分野を大きく分けて3種類に分類することができます。
それぞれを対象とした際の主な目的は以下のとおりです。
対象事業 | 既存事業 | 関連事業 | 新規事業 |
戦略類型 | -事業規模拡大戦略
いわゆる水平統合型のM&A。同業者の買収・統合により事業規模を拡大させる戦略 -エリア拡大戦略 新たな市場を獲得するために、他地域の企業を買収してしい市場に進出する戦略 -ロールアップ戦略 小規模な同業者を複数買収して、規模拡大と効率向上による収益拡大を目指す戦略 |
-バリューチェーン拡大戦略
いわゆる垂直統合型のM&A。川上あるいは川下の事業を営む企業を買収して事業を拡大する戦略 -製品ラインナップ拡充戦略 機能、価格帯、顧客層などが異なる製品を取り扱う企業を買収して、一気に製品群を拡充する戦略 |
-コングロマリット化戦略
事業ドメインを複数構築し、特定ドメインに対する偏りを減らすことでリスク分散を図る戦略 -事業ポートフォリオ転換戦略 複数の事業を営む企業がM&Aにより新たな成長戦略を獲得し、大胆に事業構成を組み変える戦略 |
経済性・効果 | 規模の経済性 | 範囲の経済性 | リスク分散・成長拡大 |
■個別企業のM&A方針
次に、積極的なM&Aを展開している㈱カプコンのM&A方針を見ていきましょう。
カプコンのM&A方針をHPから抜粋すると、
当社が今後も安定成長を果たすには、コンシューマ・オンラインゲーム事業において市場規模が大きく成長余力のある海外での収益拡大が必須です。当社は「グローバルに通用するコンテンツの創出」および「『ワンコンテンツ・マルチユース』のための技術、ノウハウの取得」を目的とする買収・提携を積極的に実施しています。
ただし、国内大手ゲーム会社や玩具メーカーなどとの合併は、海外での販売拡大にあまり寄与しないうえ、ライセンスビジネスの展開を狭める恐れがあるため考えていません。 また当社は、敵対的買収(TOB)はこれまで実施しておりません。その理由は、エンターテインメント産業においてはコンテンツを創出する人材こそが最大の資産であり、TOBでは人材が流出してしまい、結果として買収した企業の価値が大きく減少してしまう可能性があるからです。 出展㈱カプコンHP(http://www.capcom.co.jp/ir/president/ma.html) |
とあります。
2010年には家庭用ゲームにおける海外開発部門の拡充のため、カナダのBlue Castle Gamesを完全子会社化、2008年には遊技機の開発、設計、製造および販売を目的として、株式会社エンターライズを子会社かしており、先ほどの類型で言うとエリア拡大・製品ラインアップ拡充等を目的にM&Aを展開していることがわかります。
- 事業計画の立案
M&Aの目的を明確にした後には、取得する事業・企業の取得後の事業計画を立案します。
事業によってばらつきはありますが、計画の作成期間は5年~10年程度、PLを中心に作成を行い、BS・CFまで作成を行うとより計画の精度が高まります。
事業計画を作成する際には、スタンドアローンバリューとシナジーバリューの2種類を考え、それぞれ計画を作成することが有効です。
スタンドアローンバリューでは、仮にM&Aを実行しなかった場合の取得対象事業・企業の計画です。
M&Aを実行しない前提ですので、当然に自社とのシナジーは見込みません。
直近数ヵ年の実績を元に、DDやインタビューなどを通じて確認された一過性の収益・費用を除き、計画期間における実質収益力を測ることが目的となります。
シナジーバリューでは、期待される相乗効果を数値に落とし込んで事業計画を作成します。
M&Aには想定されるシナジーと同時に、株主・経営者等の変更に起因するディスシナジーリスクが発生するため、必要に応じて、一定程度の顧客流出・グループ経営に合わせたコンプライアンス体制整備に伴うコスト上昇等を計画に反映させることが肝要です。
- 成功・失敗の基準決め
どれだけ精緻に目的・計画を固めても、M&A実行後には計画通りに事業遂行ができない場合も考えられます。
実行後にきちんとM&Aの効果測定を行うことができるよう、成功・失敗の基準を明確にしておく必要があります。
事業によって事業価値を生み出す源泉は異なりますが、基準を定量化する上では、結果数値として営業利益・経常利益・フリーキャッシュフロー・ROE・ROIC等の計画値との差異、KPIとして案件の受注率、社員1人あたり営業利益、社員の離職率等を分解して制定することが効果的です。
成否の基準の制定と同時に、撤退方針を決めておくことも重要です。
- 事業・企業の運営責任者の選定
M&A実行後には、シナジーをきちんと実現するために、またグループガバナンスを強化することを目的に、代表者や財務責任者などの重要なポストを占める役割を自社から派遣することが一般的です。
誰に事業・企業の運営を任せるのか、どのような報酬を与えるのかなど、具体的なイメージを持って案件を進めていくことが重要なポイントとなります。
運営責任者の選定は可能な限り早い段階で実施し、可能であれば①~③のプロセスに当事者として参加することが最良です。
M&Aの過程に運営責任者が関わることで、実行後の事業運営に対する納得感の醸成、対象事業・会社に対する理解度の向上が実現されます。
本日は、所謂PMI(Post Merger Integrationの略 M&Aの取得後の統合活動)の前に、M&A前の戦略
Pre Merger Strategy(PMS)が重要であるというお話を差し上げました。
そもそも、成長戦略としてM&Aがベストなのか?から、是非、お気軽にご相談くださいませ。